心奪っちゃったんです♪

吾輩は犬である。

名前は、まだない。

 

フレンチブルドッグというカテゴリーに属する。

 

 

と言っても、

ずっとショップで「ぶんちゃん」呼ばれていた。

 

この顔だから本当は

ぶーちゃん呼びたかったのは

まだ生後三ヶ月足らずのボクでも見当がつく。

 

でもその真実に対する配慮が垣間見えるあたり

人間のいいところだろう。

 

 

僕はいつもショーケースの中にいた。

 

 

僕を見る子どもの目は残酷で

隣にいるトイプードルを見るそれとの差は激しく

生まれたばかりで純粋だった僕の心を

劣等感でいっぱいにさせるには時間がかからなかった。

 

 

僕を『可愛い』と言う人には法則がある。

 

着飾らず素で勝負！みたいな女性が

ボクのケース前に来てくれる。

 

頑張って女子ってる可愛いヒトは隣に引き込まれる。

のきなみこんな感じだろう。

 

そんな法則は三日もあれば理解した。

 

 

フン

 

 

ショップ店長のエカワ姉さんは

ボクの家族探しに一生懸命協力してくれた。

 

ショーケースに見入るお客さんに

ボクを抱っこさせ

「一緒に連れて帰ってあげてください♡」と

ボクがいるその家族の生活を想像させてくれる。

 

 

 

ホントのこと言うと。

 

怖い。

 

 

突然顔の前に出て来る手。

初めて見る人のボクの顔より何倍も大きい手が

ボクの体を触りまくる。

 

怖い。

怖い。

怖い。

 

でも震えちゃうとエカワ姉さんが心配して

ショーケースに戻すから

ボクは頑張ってそれを我慢するんだ。

 

 

だって約束したんだもん。

 

 

家族を見つけようね。って。

 

 

エカワ姉さんが言ってくれたから

ボクは頑張るんだ。

 

 

 

なのに。

 

みんな帰っちゃうんだ。

 

 

隣の部屋のコはすぐに

おとーさんとおかーさんが見つかって

ここからいなくなるのに。

 

 

 

 

僕は選ばれない。

そう。

僕は選ばれないんだ。

 

 

 

 

知ってるよ。

 

ボクは他の子よりも若干値段が高いことを。

 

だから、

大人の視線がプライスカードに移る瞬間が怖い。

 

 

 

値段じゃなくてボクを見て！！！

 

 

 

そんな心の叫びは人間には届かず、

彼らは日常に戻ってゆく。

 

 

 

そんなある日。

女の子とお母さんがボクの目の前に来た。

絶望感でいっぱいになるボクの心。

 

だってあのお母さん

全くボクに興味ないんだもん。

 

ボクに、、、じゃないな。

隣を見ても誰を見ても表情は変わらない。

 

 

ナニしに来たんだよ！

興味ないなら来るなよな！

 

寝ようと思ったボクにエカワ姉さんが言った。

 

 

「ぶんちゃん、行くよ！」

 

 

やいやい、エカワ姉さんそれはないよ！

いくら僕でもあんな鉄仮面はイヤだよ！

 

そう思った時には僕はあの鉄仮面の腕の中にいた。

 

 

だっこしてあげてください♡

可愛いですよ～！

 

 

 

恐々と目を開けるとあの鉄仮面と目が合った。

 

 

心配そうに、そして、「行け」という目をして

ボクを見守るエカワ姉さん。

 

 

姉さん。

ボクこんな怖そうな人に否定されたら

もうこの先頑張れないよ。怖いよ！

 

 

そう思った瞬間、ボクのお腹に当たっていた

鉄仮面の手がボクを触り出した。

 

 

 

ん？

 

 

無表情でボクを見る鉄仮面。

 

目が合って1秒、

鉄仮面の目が一瞬色を変えた。

 

 

その間もエカワ姉さんが

いろいろボクの説明をしてくれる。

 

ボクの中に緊張が走る。

 

 

お願いボクを否定しないで！！！

 

 

 

そう思った瞬間に鉄仮面は言った。

 

 

お姉さん！

細かいことはいいから商談に入ろうか！

 

 

 

 

ボクもエカワ姉さんも

一瞬なんのことだかわからなかった。

 

きっと隣にいる鉄仮面の娘も理解してなかった。

 

 

ほら、鉄仮面！

隣にいる娘が目を見開いてお前のこと見てるじゃないか！

 

 

 

そんなボクを見て鉄仮面は初めて笑った。

 

 

うちにおいで♡

なかよくしようね！

 

 

 

何だよ鉄仮面☆

もう鉄仮面ともお前とも

呼べなくなっちゃったじゃんかよ！

 

 

そして30分後、

ボクは運転するおとーさんの膝の上にいる。

 

 

これがボクのおとーさんか☆ 

ボク、勝手に来ちゃったのにナニも言わないんだな。

 

 

おかーさんは小声で言った。

 

パパのカードで買っちゃった♡

(・ω<)ﾃﾍ!!

 

 

笑うおとーさん。

 

 

あ、この家族はこんな感じか。

ボクがこの家族のためにできることをしよう♪